Mahoko Blog

7年目のアメリカ音楽留学生活...奇想天外な日々の中で感じたことをじっくり反芻しながら、丁寧に生きる。

芸術の力とは

私は常々思います、芸術で戦争は止められないし、貧困に苦しむ子供達のお腹も一杯にはならない。昨今の目に見えないウイルス感染から、芸術それ自体が、私たちの命を守ってくれますか。

 芸術家自身が「芸術の力が必要」と発信するのは、なんだか あまりに気取っているような気がします。「芸術の力が必要だ」と認め、求めることができるのは、観る・聴く側、つまり受け取る側の人だけではないでしょうか。

 

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先週、私のアメリカでの母校の一つ、ボストン音楽院の学生達がやってくれました。

 

春休み直前に音楽院閉鎖になり、5月まで残っている授業は、全てオンライン講義に切り替えられ、教職員、スタッフ、学生達は散り散りになりました。

随分と季節外れな時期に、「(Have a nice summer vacation!)いい夏休みを」とか「(See you in the fall)また新学期に会おうね」なんて言葉を掛け合い、何が何だかわからないまま、ブレイクに突入したのです。この2週間、ボストンの状況も、凄いスピードで緊迫してきています。

 

先週一週間の春休み中、音楽院に在学中の作曲科の学生一人の呼びかけで、総勢74名の学生が、それぞれのから自分の専攻で参加し、"バーチャルオーケストラ"として録音編集された"What the world needs now (邦題"世界は愛を求めている"1965年ジャッキー・デシャノンの歌でヒット)"の動画は、この数日でアメリカ中のインターネットやSNSでシェアされ、話題になっています。

 


What the World Needs Now - for Virtual Orchestra 

 

大学院とプロフェッショナル・ディプロマ課程の4年間、みっちりお世話になった音楽院の卒業生として、現役の学生達をとても誇りに思ったし、今もスタッフとして、このコミュニティの一員でいられることを とてもありがたく思いました。

 

歌詞のメッセージやメロディーの美しさ以上に、何が、こんなに私たちの心を震わせたのだろうかと考えた時、それは、"学生"といいながらも 立派な"表現者"たちの、"ただ音楽をしたい、踊りたい"という、"純粋な表現"そのものが、多くの人の心に届いたのだと気が付きました。

そこには、なんの欲も、お節介も、恩着せがましさも無いから、沢山の人の心に届いたのではないでしょうか。

 

純粋な表現の本質を感じて、観て、聴いて、人は感動するのであって、希望や勇気を"与えよう"と躍起になって創られた表現を、観て、聴いて感動するのではありません。

芸術が人の癒しになったり、希望になったりするかどうかは、私たち芸術家自身が押し付けるべき事ではないと思います。

 

 

結局、「芸術の力」は、受け手の心が決めること

だと思いませんか。

 

 

人には、それぞれ事情があって、背負っているものも色々でしょう。

それでも、今のような、世界的パンデミックの非常事態において、芸術分野以外でも突然のキャンセルや、全く目処の立たない 期限不明の延期などは山のように発生しています。

(2020年3月28日現在) 様子を見ながらでも、展示会ができたり、人が集まったり まだ出来る日本とは比べ物にならないくらい、イタリアやアメリカでは期限の分からないシャットダウンが続き、本当に色んな物事が、はっきり"無し"になっています。

 

こういう時、世の中の状況や判断に文句を言ったり、悪態をつくのは時間の無駄でしょう。これからの収入の当てがないのなら、プライドを捨てて、改めて自分のスキルや才能を見つめ直してみるのもいいかもしれません。

 

 

長い人生の中での、数ヶ月。

この数ヶ月を糧にして、もっといい表現を創ろうと思えるようでありたいです。

 

ニューヨークでは、市内のコンベンションセンターを臨時病院に転換する作業が 昨日完了しました。イタリアでは、集中治療室と人工呼吸器の数が不足し、コロナウイルス以外の重症患者さんの治療までが 危うい状態に陥っています。

マドリードでは65歳以上の患者さんの人工呼吸器をはずし始めています。数が足りないために、若い人に譲り、年老いた人は、ただ死を待つという事です。患者さんも辛いし、命を救うべく全力を尽くしておられる医師や看護師の皆さんの心の痛みは計り知れません。

 

静まり返ったボストンの街の中でも、"生活に必要不可欠な業種"に当たる:食料品店、医療機関、銀行、配達業など、私たちの通常生活に支障がないように働かれている方たちには、本当に頭が下がります。

 

 

私は常々思います、

芸術で世界の争いは止められないし、貧困に苦しむ子供達のお腹も一杯にはならない。目に見えないウイルス感染からだって、芸術それ自体が、私たちの命を守ってはくれない。でも、芸術家の創造力が世のため人のためになる時は必ずあるし、芸術が人の心に寄り添える瞬間もまたやってくる。

 

"What the world needs now"の中では、こう歌われています。

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https://youtu.be/QagzdvzzHBQ   

 

What the world needs now, 

今、世界が求めているもの、 

Is love, sweet love, 

それは愛、優しい愛 

No, not just for some but for everyone. 

誰かの為ではなく、すべての人々の為の愛。

 

決して押し付けがましく無く、スマートに、一人の人間として、今の最善を考えます。振り返って、大袈裟だったね、と笑える日が来たら、幸せだと思いませんか。