母の日に
“自分の命が輝く日。
世界中のお母さんに、心からありがとうの日。”
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このご時世、どのビジネスも経営難だというのに、この日ばかりは、アメリカ中のお花屋さんが忙しかったというニュースを読んで、少し嬉しかった。
ボストンでの家籠り生活も2ヶ月が過ぎました。
うちの近所、ハーバードスクエアのお花屋さんは、お元気だろうか。
私がここに住んでから、一度も浮気せずに通い続けている Brattle Square Floristは100年以上続くファミリー経営の小さなお花屋さんだが、私のルームメイト クリスタと 20年前に亡くなった彼女のご主人との思い出のお花屋さんでもある。
彼女のご主人という人は、とても陽気で豪快、ロマンチストなイタリア系アメリカ人だったそうだが、このお花屋さんをずっと贔屓にしていた。事ある毎にお花を買って帰り、喧嘩をした日なんかは、大きなバラのブーケを持って帰るというのがお決まりだったらしい。
ご主人亡き後も、彼女はそこでお花を買っていたし、私がこの家に越してきて間もない頃、そんな話を聞いてからは、私もずっと通っている。
毎年1月2日、彼女のお誕生日は、朝一番でそこに行くことが私の恒例行事になっていて、「あけましておめでとう」と「お誕生日用のブーケをよろしく」を、お花屋の息子さんスティーブンに伝えると、年が明けたなぁ…と感じるのだ。
去年の夏に私のルームメイトが亡くなった時、お花屋ご家族は一緒に悲しんで、私を元気づけてくれた。亡くなる前日、私は偶然そこでお花を買って帰って、彼女はそれをとても気に入ってくれた。亡くなる日の朝も、「とてもいい香りだわ。」と言っていた。お見送りのお花をお願いするのは、そこのお花屋さん以外考えられなかった。
彼女が逝ってしまった後、お花屋さんに立ち寄る度に、お母さんや息子さんから、今まで聞いたことがなかった思い出話や、この辺の昔の話なんかを聞かせてもらっている。
ルームメイトと同世代、80代半ばのお花屋のお母さんは、いつもちゃきちゃき働く。
「クリスタんところの子だね、あんたは特別だよ、天使みたいな子だ。」と可愛がってくれるし、"お金は重要じゃない…雨風を凌げる庇が頭の上にあることの感謝と、勤勉に働くことの大切さなんかを、お母さんは教えてくれたりするのだ。
彼女に育てられた息子さんも、また優しいおじさんで、「これは、クリスタと君に。」と言って、毎度おまけをしてくれる。
ありがたい、
ありがたい。
ボストンのこの家に住んで6年になる。
大家さん兼ルームメイトだったクリスタと一緒に、5年間2人で住み、彼女が残したこの家で1人で暮らして、もうすぐ1年になる。
もうすぐ、1年になる…。
"去年の今頃は、まだ彼女はここにいた" と言えなくなる日が、もうすぐくる。
ちょうど去年の今頃、私は最後の大学を卒業し、彼女は"私のお母さん"として卒業式に出席してくれた。彼女は、私のアメリカのお母さんだった。
家籠りの日々の中で、彼女がここに居てくれたらいいのになぁと思う日は多い。
戦争も、ヒトラーも、ベルリンの壁も経験し、若い頃ドイツからアメリカにやって来て、ショッキングな事件も嬉しいことも沢山経験し、人に愛された彼女は、とにかく強くて美しい女性だった。
この2020年、新型コロナウイルス・パンデミックの世の中に、彼女が生きていたら、どんな反応をしただろう。この家で、また24時間2人で暮らす毎日があったら、どんなことをしただろう。
彼女はきっと、ちっとも動じずに、元気によく喋り、丁寧に食べ、じっくり読書し、けらけら大笑いして、時々思いっきり悪態をついて、私を安心させてくれたに違いない。
「それでも明日はちゃんとくるわょ」と言ってくれる、キラッキラの笑顔が浮かぶ。
私のアメリカのお母さんは、もういないけれど、私は 彼女が残してくれたものに、今も支えられている。
ありがたい、
ありがたい。
彼女の死を経験して、私は今、自分が"生きている"ということを強く感じるようになった。
死を身近に感じた時に、自分の命が輝いたのを感じた。
当たり前だと思っていたことが、奇跡だとわかった。
ありがたい、
ありがたい。
本当に感謝だ🌱
世界中のお母さんにありがとう 。
Mother's Day 2020